それでは、さっそく小栗判官と照手姫伝説を紹介いたしましょう。 お子さまたちに、伝説が語り継がれますように・・・ |
照手姫ものがたり(1)
むかし、室町時代といわれた頃のお話です。
その頃、足利持氏という関東管領が鎌倉に住んでいました。
関東管領というのは都に住んでいる将軍さまの代わりに、関東地方を治めるという大切な役目をしています。ところで、将軍さまには子供が無くて世継ぎに困っていました。
持氏は、「よい折じゃ、息子の安王丸か春王丸のどちらかを何とかして将軍にしてしまおう」
と、たくらみ、自分の子を将軍にする運動を密かに始めました。
さて、常陸の国に小栗判官満重という侍がおりました。
満重は智恵も勇気もあり、その上、心の正しい人でしたので持氏のたくらみに賛成しませんでした。持氏は自分のたくらみに賛成しない満重が邪魔になったので、小栗城を攻め滅ぼす事にしました。
「や〜っ、や〜っ!!」
持氏の家来たちは小栗城を取り囲みました。
満重たちは勇ましく戦いましたが、何十倍もの敵にはかないません。
とうとう、小栗城は落ちてしまいました。「ひとまず三河の国へ落ち延びよう」
それから間もなく、11人の旅人が相模の国、藤沢にやって来ました。
そこで、『横山』 という、宿屋に泊まることにしました。
ところが宿屋の主・横山太郎は、この辺りを荒らしまわる泥棒の親分だったのです。
太郎は満重たちが旅の姿はしていても、立派なお侍であることに気づきました。「しめしめ、良い獲物じゃわい」
とつぶやくと、横山太郎は満重たちを一番良い部屋に通し、お酒を勧めました。
(名馬鬼鹿毛のお墓:長生院)
横山太郎は満重たちが酔いの回ったところをみはからって『鬼鹿毛』 という、日本一の暴れ馬を連れて来ました。「お侍さま、この馬は近寄ると人をも食い殺すという暴れ馬ですが、なんとか大人しくさせて戴けないでしょうか」
と満重に話しかけてきました。
横山太郎は酔っている満重が馬に乗りそこなって、大怪我をするか死ぬことにならないかと、考えたのです。
満重は「良い馬じゃ!」
と言って飛び乗りました。
満重は馬乗りの名人だったのです。
あまりに見事な満重の手綱さばきに横山の者たちは皆びっくり・・・
満重を自分たちの力でやっつけるのは難しい、と、考えた横山太郎は・・・
「お酒の中に毒を入れて殺してしまおう」
ということになりました。
横山太郎は美しく着飾った女たちを呼び、満重たちに毒の入ったお酒を勧めさせました。
ところで、女たちの中にひときわ美しい娘がおりました。
その名を照手姫といい、立派な武家の娘でしたが、両親に死に別れ横山太郎の家で働いていたのです。照手姫は満重のりりしい顔立ち、澄んだ目、気品のある姿を見て
(きっとこの御方は立派な方に違いない、この方を死なしてはならない)
と、思いました。
太郎の恐ろしいはかりごとを知っている照手姫は何とかして満重に知らせたいと思い、勇気を出して満重に近づきました。
満重にお酒を注ぎながら小さい声で「このお酒は召し上がってはなりません。毒が・・・・。恐ろしい毒が入っています・・・・」
と、満重に耳打ちしました。
満重は照手姫をじっと見つめました。
何を言っているのか聞き取れなかったのです。
しかし、お酒を注いでいる照手姫の手が震えています。満重ははっとしました(これは何かあるぞ)
照手姫の唇がまたかすかに動きました。
「このお酒には、毒が・・・・」
満重は(そうか、そうだったのか、ありがとう)と、心の中で照手姫に感謝し、そっと照手姫の手を握ると盃を置きました。
毒酒であることを知った満重はお酒を飲まないようにしました。
そのうちに、太郎がやって来て、しつこく勧めました。「もう充分にいただきました」
と、断っていましたが、あまり断るとかえって怪しまれると思い、盃を少しだけ唇に付けてみました。
それを見て家来たちも盃を口に運びました。
すると、どうでしょう・・・満重はたちまち身体中がしびれて、そのまま倒れてしまいました。
家来たちも血を吐いて死んでしまいました。「うわっはっはっはあ〜 上手くいったわい。者ども着物をはぎ取れ、金を残らず奪ってしまえ!!うわっはっはあ・・・」
泥棒の家来たちは満重をはじめ10人の家来の着物をはぎ取り、裸にして上野ヶ原に投げ捨ててしまいました。
(小栗判官と従者のお墓:長生院)